第四章 疑惑と混乱

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(何でだ……!?)  理由は不明だが、取りあえず、この連打を止めさせないといけない。瑞紀は、慌ててドアチェーンを外した。扉を開けるなり、ハイヒールがずいと侵入する。閉めさせないと言わんばかりの態度だった。 「ええと……」   みどりと男たちは、無言で部屋へ入って来た。秘書なのかボディガードなのかは知らないが、男たちはいずれも体格が良かった。黒いスーツで身を固め、眼差しも険しい。 「どういうことかしら?」 みどりは腕を組むと、瑞紀を見すえた。 「約束は覚えているわよね? 小田桐家に入り込もうなどという野心は持たない、と。舌の根も乾かないうちに、大胆な真似をしてくれるじゃない」 「あの、一体何のことをおっしゃっているんです?」  みどりは、目を吊り上げた。 「とぼける気? ここは、特別なお客様専用の部屋よ。私がとある方を案内しようとしたら、何と一ヶ月も埋まっているとか。支配人に問いただせば、聖があなたのために確保したというじゃない」  みどりは、瑞紀にずいずい近付いてきた。胸ぐらをつかまんばかりの勢いだ。 「小田桐の領域に入り込み、果ては特別待遇をさせるなんて、何様のつもり? もう聖の配偶者になったつもりでいるのかしら?」 「違います!」  完全な誤解に、瑞紀は焦った。 「実は俺、ストーカー被害に遭っているんです。それで、聖さんが気を利かせてくださって……。宿泊代は、お支払いするつもりでした」 「見え透いた嘘を」  みどりは、吐き捨てるように言った。   「ちょっと頭が切れるようだから、信用したけれど、やはりオメガね。とにかく、あなたはクビよ。もちろん、前金も返すこと」 「みどり社長! 本当なんです。聖さんと結婚したいだなんて、大それたことは考えていません!」  前金くらい、いくらでも返還するが、このままではみどりは、きっと西尾も責め立てるだろう。それは避けたかったが、みどりのボルテージは上がる一方だ。 「いい加減になさい! とっととこのホテルを出て、二度と聖に近付かないこと。さもなければ……」  そこでみどりは、にやりと笑った。背筋が凍るような笑みだった。 「強制的に、聖の前から消えてもらう……しかないわねえ」  みどりの背後に立つ男たちは、終始無言で瑞紀をにらみつけている。瑞紀は、ぞくりとした。小田桐ホールディングスの人脈は、計り知れない。瑞紀をどうすることもできるだろう……。
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