第四章 疑惑と混乱

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「とまあ、そんな事情なんです。母を許せとは言いませんが、少し事情をご理解いただきたくて」  聖は、決まり悪そうな表情を浮かべた。 「瑞紀さんには、ご迷惑をおかけしました。お詫びといっては何ですが、夕食をご馳走したい。いかがですか?」 「……いえ。あいにく、もう済ませました」  瑞紀は、とっさに嘘をついた。 (これ以上、彼のそばに居てはいけない気がする……)  小田桐みどりは、瑞紀をクビにすると宣言した。報酬を期待する西尾なら、きっと彼女の誤解を解き、計画を続行しろと言うだろう。けれど、それは容易では無い気がした。みどりの怒りは、相当のものだ。瑞紀が聖から離れなければ、叔母夫婦など、身近な人間にまで手を出しかねない予感がする。 (それに……、これは好機かも)  『メイト・エージェント』に、自分以上のサクラはいないと、瑞紀は自負している。瑞紀が去った後、ろくなオメガに出会えなければ、聖も結婚相談所をやめて、白井明人と結婚する踏ん切りが付くかもしれない。そうすれば、小田桐ホールディングスの後継者にもなれる。 (順一さんがなっても構わないって言ってるけど。やっぱり、正妻の息子だもんな。本心かどうかはわからないし……) 「では、お酒でも?」  母親の仕打ちを申し訳なく思っているのだろう、聖はあくまでも償うつもりのようだ。だが、瑞紀はかぶりを振った。そばにいる時間が長引けば、離れがたくなる……。 「養成所に提出する書類を、準備しなければいけないので」 「そうですか。では、また後日、改めてお詫びさせてください」  仕方なさげではあったが、聖はようやく引き下がった。 「無理しないでくださいね」  そう言って微笑むと、聖は席を立ち、部屋を出て行った。瑞紀は、ため息をついていた。『後日』など無い。このホテルに宿泊するのは、今夜限りにするつもりだ。    瑞紀は、解きかけた荷物を、もう一度詰め直していた。
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