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長い毛につぶらな瞳。だけど大きさは立ち上がったら私の身長くらいあるんじゃないかというくらいの、大きなゴールデンレトリバーがいた。犬が嫌いなわけではないが、目を開けた途端に巨体が目の前にいたから驚いた。リードはしてあるものの飼い主は見当たらず、もしかしたら手が離れたのかもしれない。私はそっと手を伸ばし、頭を撫でてやる。するとゴールデンレトリバーは尻尾を振って喜んでいる。
「ああ! こんなところにいた!」
一人の男性が走ってきて、私の前で止まる。ブラウンの髪にパーカーの男。東洋人の年齢は分かりにくいがおそらく二十才前半といったところか。丸い大きな目の下のホクロが印象的だ。
彼がリードを持つと、ゴールデンレトリバーは私のことなどお構いなしに彼の方を向き、ワンと吠える。尻尾が千切れんばかりに左右に動いているから、この男性が飼い主だろう。
「すみません、この子すぐ人に懐いちゃうんです。何かしてませんか?」
ゴールデンレトリバーの瞳に負けないくらい、黒くて大きな瞳を彼はこちらに向け聞いてきた。
「……って、日本語分かります?」
ゴールドの髪にグリーンがかった瞳の私を見て、言葉が通じているか、不安になったのだろう。少し微笑んで彼に答えた。
「大丈夫。その子は何もしていないよ。起きたら目の前にいて驚いただけだ」
私が日本語を話したので彼はホッとしたのか笑顔を見せた。笑うとさらに年齢不詳で、もっと若いのかもしれないと思い始めた。
「この子は君の飼い犬? かなり人懐っこいんだね」
再度手を頭に伸ばすと、ペロっと舐められた。こら、と彼が注意する。
「人懐っこすぎて、すぐ逃げちゃうんです。ああでも小さな子にはあまり近寄らないんです。驚くのが分かるからね。優しい子なんですよ。あなたは観光に来られたんですか?」
ゴールデンレトリバーの話から、私に対する質問に変わりおや、と感じた。今日出会ってきた日本人はタクシーの運転手を除き、私のことなんて興味も持たず面倒くさがるような人ばかりだったのに。私は少し嬉しくなった。
「うん。少し長めの滞在でね。ただ、想像以上に東京が慌ただしい街だったから、半日でダウンさ」
あはは、と彼は笑う。
「ゆったりとしたところがお好きなんですね。実はたくさんあるんですよ」
彼がそう言っていると、クゥンと鳴き声がした。どうやら散歩を再開して欲しいらしく、ゴールデンレトリバーがリードを引っ張って主張していた。
「はいはい。そろそろ行かなきゃ拗ねちゃいそうだ。もっと時間があったら、オススメの場所を教えてあげれるんですけど」
彼の優しい言葉に心を動かされてジワっと温かくなる。いい子だな、と思いながら私はベンチから立ち上がり彼に握手を求めた。
「いや、こうして話をしてくれたことに感謝するよ。ゆっくりできる場所をもう少し探してみよう」
「ぜひ」
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