1.ロジェとロジェ

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1.ロジェとロジェ

日本人は親切で優しいって、聞いてたはずなのに。ため息をつきながら東京の街を歩く。 私はロジェ・マイヤー。念願叶ってスイスから先日、来日したばかり。今回は単純な観光ではないのだがついつい浮き足だってしまう。 降り立った空港からホテルまでは直通のバスがあったので、楽に移動ができたのだが、部屋に荷物を置き東京見学をしようと東京駅まで行ったのが間違いだった。まるでダンジョンのような駅構内のために迷ってしまったのだ。日本人は毎日このダンジョンをクリアしているのかと思いながら、意を決して、せかせか歩く人に声をかけてみるものの誰も立ち止まってくれない。中にはウロウロしている私が邪魔だったのか、わざと聞こえるようにチッと舌打ちしていくサラリーマンもいた。何とか自力で警察官のいる場所を見つけ道を尋ね、以前から楽しみにしていた浅草への行き方を教えてもらった。 しかし、ようやく訪れた浅草は人が多すぎてへとへとになったし、はしゃぎすぎた若い女性の持っていたアイスクリームが私のジャケットに飛んできてしまい、汚れてしまった。 この地点で散々だと思いながらも、次の目的地に移動しようとしたのだが、地下鉄を乗り間違えてしまったようでもはや降りた駅はどこなのか分からなくなってしまった。 これが私の現状だ。もうため息ばかりで、どこかのんびり出来るような場所に行きたい、と泣きついたのはタクシー移動。タクシー乗り場にいた一台に乗り込むと行き先を聞かれたので、海が見えるところに連れて行ってくれとオーダーした。 「海を見たい?かわってんなあ」 スキンヘッドの運転手は私をルームミラーで見ると、少し乱暴に車を発車させる。高速ビルの合間を縫って走ると段々と景色がひらけてきて、前方にコンテナや倉庫が見え始め、大きくカーブをしながら橋を渡っていく。 「外人さん、いいか覚えとけよお。これレインボーブリッジな」 そんなことを教えてくれ、ついた場所はトヨスというところだった。高いビルに囲まれた遊歩道からは海が見え、カップルや家族連れが散歩していた。確かにさっきまでいた浅草や東京駅に比べると、開放感があって気持ちがいい。タクシーの運転手はこの辺りはゆっくりできるから、よくサボっているんだと笑っている。私はようやくそこで笑顔になった。 今日は快晴で青空が広がっていた。目の前には大きなビルが何棟も建っている。タワーマンションだらけで、散歩している人達はあのマンションに住んでいるのだろうか。しばらく海風を感じながら遊歩道を歩いていたが、少し先にベンチを見つけ、休むことにした。腰掛けて頭を空に向け、目を閉じると子供の笑い声に鳥の囀り。ああ平和だなあ。 しばらくそのままでいるとふいにハッハッと変な声が聞こえて目を開けた。すると、自分の膝の前に大きな犬が舌を出してこっちを見ていたので、思わず仰け反った。 「うわあ!」
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