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5.進んだ歩み
スイスに戻った私は、出社してすぐにノアに天馬の履歴書を渡した。彼は知り合いでも容赦なく選考するからなと言いながら履歴書に目を通す。するとノアが呟いた。
「彼、なかなか高学歴だね。日本でトップの大学を出ているぞ」
私はあえて履歴書を見ずに封筒のまま渡したので学歴とかは見ていないのだがどうやらノアは興味を持ったらしい。
「なぜ彼は今、働いてないんだ?」
私はかいつまんでノアに教えると露骨に嫌な顔をした。
「数年前にコンサル大手の【サーチアンドブラザーズ】社が似たようなことして、採用担当が逮捕されてたよ。何年もそんなことしてたって。この彼が大学卒業した頃じゃないかな? 所在地も大手町だし、もしかしたら彼【サーチアンドブラザーズ】社に内定もらってたのかもな。この学歴ならビンゴだろう」
【サーチアンドブラザーズ】社は世界でもトップクラスのコンサルタント会社だ。もし、天馬がここに内定をもらっていたとしたら、我が社にとっても有望な人材になりうるかもしれない。
「彼はどこで見つけた?」
「運命的な出会いをしたんだよ」
私の言葉にノアは笑いながら履歴書を大切そうに封筒に入れた。
それから数ヶ月後に天馬は現地の採用担当も交えて、ノアとオンラインでの面接を行い、採用となった。流暢な英語を話し自己アピールを行う天馬にノアはすっかり気に入ったという。申し分ない学歴と筆記試験の結果も後押ししているようだ。
「いやあ、あれは原石だね! いい人材を見つけてきてくれて嬉しいよ」
ノアはすっかり上機嫌で何かと天馬のことを聞き出そうとする。それがビジネス上のことだと分かっているのだか、何だか気に食わない。こんなことで嫉妬するなんて、これから天馬と一緒に働いて行けるのだろうか。
内定の連絡が入ったと嬉しそうに天馬が電話してきたのはそれから三日後だった。いつもならメッセージのやり取りなのだがどうしても話をしたいと電話に切り替えたのだ。
天馬は面接の前日、以前のことを思い出して、気が滅入ったそうだ。そんな彼を救ったのは散歩中のロジェだった。天馬の不安を払拭するかのように、いつもよりたくさん甘えてきたらしい。その様子に私を思い出して頑張ったんだと聞いた時、ロジェに感謝した。今度あったらなにかプレゼントしなければ。
天馬は何度も私に礼を言ってきた。きっかけを作ったのは私だが、実力で手にした内定だ。
「あーあ、ロジェが東京に来てくれたら、ご馳走奢るのに」
その言葉を聞き、私はまだ東京に住むことを彼に告げてないことに気がついた。
「……黙ってて申し訳なかったけど私は来年の春からそっちで暮らすんだ」
「え?」
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