6.九千キロメートルの告白

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6.九千キロメートルの告白

「優しいところだな。こんな旅行者の為に時間を割いて街を紹介してくれるなんて、そうそうできないし。あとは笑顔が可愛くて……たまにいじめたくなる」 「わ、わかった。もういいよ、恥ずかしい」 「言い足りないけど」 「今度、聞くからさ。9千キロの距離で告白されるなんて思わなかったよ」 どうやら天馬は私に好かれていることに対して、嫌悪感はないようだ。ホッとしたものの今度は彼が私のことをどう思っているのかが気になってきた。 「天馬は私のことをどう思ってる?」 「少なくとも友人ではないと思っているよ」 なんとも分かりにくい表現だ。そこが日本人独自の感覚なのだろうけれど、正直焦ったい。私が黙っているとまた天馬の笑い声が聞こえた。 「ごめん、ロジェさんっていじめたくなるんだよね。つい僕もうれしくて」 「嬉しい?」 「僕もロジェさんに惹かれていたから」 その言葉に思わず息を呑んだ。 「……本当に?」 「うん。だから挨拶のキスなんてもう、心臓飛び出るかと思ってたんだ」 私が恋愛感情を確信したころには、天馬はすでに好意を抱いていたということか。思わず頭を抱えてしまう。 「天馬、私たちは同じことを思っていたんだな。あの時伝えていれば、隣にいたのに」 「うん。でもまた会えるじゃん。楽しみに待ってるね」 きっと次に会った時、私は君を抱きしめる。それはもう恋人としての抱擁だ。 それから半年経過して、いよいよ私は東京で住むことになった。十五時間のフライトを終え、天馬が待つ成田国際空港を眼下に見ながら胸がときめく。 実は今日を迎える前に、私たちはすでに喧嘩していた。天馬は就職を機にお姉さんのマンションから出て一人暮らしを始めると言っていた。私はつかさず、一緒に暮らさないかと申し出た。ちょうどいいタイミングだし、準備したマンションは一人で住むには十分すぎる広さだったからだ。いや、それだけではない。せっかく恋人になったのだから一緒にいたいと思うのに、なんと天馬は私の申し出を断ったのだ。 『なぜ? 一緒に暮らしたらいいじゃないか』 『気持ちはありがたいし嬉しいよ。でも、仕事に集中したいんだ。落ち着いたら一緒に住もう』 『私の東京赴任は三年間なんだよ。それが終わったらスイスに戻るし再度赴任になるか分からないのに』 『全く会わないとは言ってないじゃないか』 こんな感じで言い合ったけど結局私が折れた。勤勉すぎる日本人はほんとに頑固だ。まあカンパニーにとっては心強いけれど。 入国審査や関税審査を終え、到着ロビーにすすむ。北ウイングのゲートの先に見覚えのあるグリーンのパーカーの彼がいた。私に気がつくと大きく手を振り、向日葵のような笑顔を見せながら駆け寄ってきた。 「ロジェさん!」 私はたまらなくなって、両手を開き、彼の体をすっぽり包み込み抱き寄せた。シャンプーの香りと天馬の体温を感じていると、彼も腕を伸ばし私に抱きついてきてしばらくすると顔を私の方に向ける。 「ようやく会えた!」 彼の瞳がうっすらと潤んでいるのに気がつき、一秒でも早く二人きりになりたいとさらに抱きしめた。
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