1.ロジェとロジェ

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握手をした彼の手は少しだけカサカサしていた。それを感じていると、太ももあたりに何かが触れてきたので視線をやる。 すると、ゴールデンレトリバーはどうしたことか私の脚に寄りかかって腰を振っているのだ。まるで発情期のように。これには唖然としたが、もっと驚いたのはリードを持っている彼だ。あっという間に真っ赤になり、叱った。 「こっ、こら! やめなさい! この人はお前の相手じゃないぞ。もぉ、ロジェ!」 「は?」 名前を呼ばれ、私は彼に視線を投げると、彼は不思議そうに私を見た。 「えっ? なにか……?」 その時、私の足元に何だか冷たいものを感じた。すると同時に彼は大きく目を開く。自分のスラックスには大きなシミ。ああこれは、やられてしまった。 「何やってんの! ロジェーー!」 私の足に粗相をしてしまったゴールデンレトリバーに、彼は大声で叫んだ。 粗相をされた後、近くのタワーマンションの一室に通してくれた。彼はスラックスを脱ぐように言ってきた。 「消臭剤とタオルで措置します。着替え準備したから着替えてください」 「いや、そこまではいいよ。少ししかかかってないしホテルに帰ればランドリーがある」 「いや、そんなアンモニア臭をさせて帰らすなんて、できませんよ。コーヒーでも飲んで。ゆっくりしたいって言ってたよね」 彼の言うことはもっともだ。私は脱衣室まで行き、スラックスを脱いだあとに、渡されていたスェットを履きダイニングに戻る。すると彼は私の姿を見た途端、手を口元に当てて笑った。 「やっぱり僕のじゃ、小さかったなあ」 私の足首は完全に出ていて、くるぶしより上にスェットの裾がきている状態。確かに彼と私は十センチくらい身長差があるように見えた。 部屋にふんわりと良い香りがしていて、コーヒーを差し出してくれた。彼は脱衣室にいますからゆっくりしてください、と言いながら姿を消す。私はコーヒーを飲みながらあたりを見回した。 ガラスのテーブルに、オレンジの照明器具。それは有名な北欧家具メーカーのものだ。ダイニング横のリビングには背丈ほどある観葉植物。幅の広いブラウンのソファ、パーソナルチェアが配置されている。煌びやかなものではなく、シンプルでモダン。それぞれセンスがよくすっきりと収まっている。 家族と一緒に住んでいるのだろうか。それにしても、あまり生活感がないようにみえるのはモノが少ないからだ。ミニマリストというか、まるでホテルのよう。 しばらくすると彼は戻ってきた。手には私のスラックスを持って。 「匂いはなくなったけど洗濯は早めにした方がいいと思います。ただ素材からするとクリーニングがいいかな」 宿泊しているホテルにはランドリーサービスがあるので、相談して見ることにした。 「本当に、すみませんでした。クリーニング代、支払います」
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