2.まちあるき

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食事を終え、また川の遊歩道を歩きながら私たちは雑談をしていた。天馬との時間はとても楽しくて穏やかだ。彼は二十五歳で、私よりも七歳年下だった。高校生に見えたと伝えると、よく言われるんだと口を尖らせる。どうやらそれがコンプレックスのようだ。しかし二十五歳であれば仕事はどうしているのだろうか。隣で歩く彼の横顔を見ながら私は聞いた。 「天馬が学生だと思ったのは、この時間が空いていたからだ。今日は仕事は休みなのかい?それとも時間を自由にできる職業なのかな」 私が聞くと、天馬は足を止める。そして少し困ったような顔をして私を見た。 「……働いてないんですよ」 ではあのマンションの部屋は、と思ったがもしかしたら親が裕福なのかもしれない。ふうん、と呟くと天馬ははぐらかすように話題を変えた。 「それより、ロジェさんはいつまでここにいるの? 他にも案内してあげようか」 彼の提案に思わず私は頷いた。 「二週間ほど滞在するから、よかったらまた会って欲しい」 それを聞いて、憂い顔だった彼は笑顔に戻った。 「うん! ぜひ会いましょう」 その場で連絡先を交換し、次回はどこに行くかを早速天馬は嬉しそうに話してくれた。 シャワーを浴び、頭をタオルで拭いているとスマホが着信を知らせてきた。バスローブを身にまとい通話ボタンを押すと、聞き覚えのある少し低めの声がした。 「ああ、ノア。どうだい調子は」 「明日のランチは何にするか考えてるよ、ロジェ」 電話はオフィスの同僚、ノア・フリッカーからだった。スイスと日本との時差は約七時間。時計を見ると十八時過ぎなので、向こうは十一時前。ちょうど腹が減る頃だろう。 ノアと私が勤務する【フォーゲルアソシエイツカンパニー】はスイスに本社を置く。総合系コンサルティングファームだ。北欧での知名度は高いがまだまだ裾野を広げる必要がある。そのため日本での支店を東京に設置することになった。視察も兼ねての来訪、それが今回の私の目的。名目上は出張だが半分以上は観光なのだ。 ノアから連絡事項などを聞きつつ、パソコンを立ち上げる。オンラインはこういう時便利だ。ホテルがたちまちオフィスに様変わりする。 「東京支店の内定者がキャンセルしてきたんだ。ギリギリの数しか募集かけてなかったから困ってるよ」 ノアの業務はカンパニーの人事で主に採用を担当している。募集をかけている人材についても一度ノアの目を通してから、現地の採用担当者と連絡を取り合い採用するのだという。どうしても距離があるので採用活動はかなり前から行っているらしいのだが、こういう内定者からのキャンセルはかなり堪えるらしい。 「へぇ。設置開始までには代わりの人材確保できるんだろうな」 「あまり前だろ。それよりロジェ、ちゃんと視察してるのか」 「まだ二日目じゃないか。明日からは真面目にするよ」
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