2.まちあるき

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「ったく……。まあ来年からは住むんだし、よく見ておけよ」 そうなのだ、東京支社のゼネラルマネジャーとして私は三年という期限付きでこちらに勤務することが決まっている。生まれ育ったスイスから離れるのは寂しいが、元々憧れていた国だから辞令が降りたときは喜んだ。しかし昨日のような駅のダンジョンやサラリーマンたちを見ていると少しウンザリとした。それでも天馬と会えたから朝の憂鬱は消えたのだが。 ノアとの通話を終え、ふうとため息をついた。数日後、また天馬に会える。来年こちらに住むことを伝えたら彼は喜んでくれるだろうか。そんなことを思いながら、シャワー室へ向かった。 ロビーに迎えにきてくれた天馬はパーカーにジーパンという前回よりラフな出立ちだった。髪は上げていないから、初めて会った時と同じく学生に見える。天馬に近寄ると彼は私に気がついて笑顔を見せた。 「やあ、学校はどうしたの」 わざと私がそう言うと、彼はすぐほおを膨らませた。 「ロジェさんひどい!」 「ははは、ごめんごめん」 彼とは知り合って日が浅いし、年齢も離れているのに何故か楽しく過ごせる。まるで昔からの旧友のように。 それからも私たちは何度か会った。さすがに毎日とはいかなかったが少なくとも二日おきくらいに会っていたと思う。 天馬は人混みが苦手な私を思ってか、比較的人通りの少ない街や公園に連れて行ってくれた。食事をするところも寿司や割烹料理とかではなくて、食堂やカフェ、喫茶店など毎日通っても飽きないような店ばかりだ。 しかし『これぞ東京、というところを見せてあげたい』と観光地もピンポイントで連れて行ってくれた。東京タワーではお土産にタワーのキーホルダーをくれた。 「楽しんでる? ロジェさん」 ことあるごとに、天馬は私に聞いてくる。東京の、日本の代表として僕はプレゼンしてるんだからと笑う。 「うん。どんなガイドよりも、よほど天馬の連れて行ってくれるところが楽しいよ」 「ふふ。よかった」 ああなんて可愛い笑顔なんだろう。そう思うようになったのは、滞在日が短くなってきた頃。離れ難いなと感じているうちにとうとう最後の日となってしまった。それを告げたとき、天馬もわかっていたようで、頷きながら笑っていたがそれが寂しそうに見えたと言ったら自惚れだろうか。そんなことを思っていると天馬に今日はどこに行こうか、と尋ねられふと大手町、丸の内が頭に浮かんだ。 私が勤務することになるオフィスは品川駅に隣接するビルに入る。そちらには何度か視察に行っていたが大手町や丸の内はまだゆっくりと訪れたことがなかったのだ。そして天馬に伝えると目をぱちくりさせていた。 「ただのオフィス街だよ?」 「ああ。でも日本の経済の中心である街を見てみたいんだ」 「……ふうん」
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