夏の魔物と密かな恋

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「こら! 二人ともなんでこんなところで寝てるの! いくらお休みだからって、だらけ過ぎでしょう!」  目が覚めると、私はソファで横になっていた。カーペットの上には、まだ夢見心地のパパが転がっている。 「ママ……?」  私は体を起こし、両手を腰に当てて仁王立ちしているママを見上げた。 「パソコンも点けっぱなしで、二人でコソコソ夜中に何やってたのよ。いかがわしいことしてたんじゃないでしょうね?」 「してないよ! ただ……」  説明するより見せた方が早いと、スリープ状態になっていたパソコンを立ち上げると、そこには再生の終わった動画の画面が映されていた。陽誠館対端島高校、四対三。 「四対三……?」  九回裏で追いついたんだからそれはあり得ない。少なくとも、五対四ではあるはず。 「何それ? 野球の動画?」 「うん。パパが甲子園に行った時の」 「何言ってるの。パパが甲子園に行った時のって、パパは試合に出てなかったでしょうが」  ママの言い方は少し心無い。だけど、声色はやわらかく弾んでいた。 「ママ、知ってるの?」 「知ってるに決まってるじゃない。ママは応援団長やってたパパに惚れて付き合いだしたんだから」 「ええ?」 「何よ。長ランなんかダサいっていうつもり? 昔はそれが良かったのよ。周りの子はみんな神林君に夢中だったけどね、パパだって格好よかったのよ」 「うん。ダサくなんかない。ちょっとだけわかるよ。ママ」  私が頷くと、ママはまんざらでもない顔をしてまだ起きないパパのお尻を軽く蹴った。  神林君を見ていたはずなのに、私の心の中は高校生のパパでいっぱいになっていた。白球のゆくえを追い、その瞳に希望を宿し続けたパパ。誰よりも格好よかったよ。
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