夏の魔物と密かな恋

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 スリーアウト目はあっけなく取れて、相手高校の攻撃は終了。九回裏。一点を追いかける状況で、端島高校は最後の攻撃に入った。打順は一番からという好打順。もしかして、と淡い期待を抱いてしまう。  パパの顔と動画の残り時間を見るに、負けは確定しているようなものなんだけど……。  パパが率いる端島高校の応援団は、ますます声を上げて打席に立つ選手を鼓舞した。彼らも、それに応えるように力強く素振りをする。気合は十分、足りないのは何だろう。運なのかな。実力なのかな。甲子園には魔物がいるなんていうけど、この時は現れてくれなかったんだろうか。  淡々と試合は進んだ。  一つストライクを取られる度に、ため息とともに端島高校のベンチの様子が映る。闘志をみなぎらせている者、叫んでいる者、涙を浮かべている者。レギュラーにも、応援団にも、動画を見ている私たちにも、できることはただひとつ。祈ることだけだった。 『ツーアウト、ランナーなし。ここで打てなければ試合終了。勝負の行方は、ピッチャーであり四番の神林に託されました!』  神林君の登場に合わせて、もうすっかりメロディを覚えた狙い撃ちが流れる。  打てよ、打てよ、打て打てよ。と会場全体が口ずさんでいる。 『神林君には一発がありますからね。陽聖館まだまだ油断できませんよ』  一球目、内角寄りのカーブを見逃し、ストライク。二球目、同じコースのカーブに当ててファール。ツーストライク、ノーボール。後がない。 「打って!」 「打てよ! 神林。ここで打たなきゃ俺たちの夏が終わっちまう! もう少しだけ、俺たちの夏を」  三球目―― 『打った! 大きい‼ これはまさかの同点の一打になるか⁉』 「え……?」 『伸びる! 上空は追い風だ。センター方向に伸びる! センター追いつくも届かない‼ 見送る。 ホ――――ムラン!!!! 四対四、土壇場で並びました!』 「すごい! 打った――――!」
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