夏の魔物と密かな恋

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「うそ……だろ」 「パパ?」 「この試合は神林の三球三振で終わり……。俺たちの願いは届かなかったはず」  呆然としたままパパはつぶやき、パソコン画面を見つめた。 「CGじゃない。そっくりさんでもない。どうなってるんだ?」  画面の中には喜びの涙を流すパパがいた。隣で応援していたユニフォーム姿の部員と抱き合い、飛び跳ねている。あれはパパだ。本人だってそう言っているんだから間違いない。  かと思えば、それはすぐに切り替わり、両手を挙げて走る神林君が映った。顔からはみ出してしまいそうなくらいの笑みを浮かべて、ホームで待つチームメイトたちのもとへ駆け寄る。彼はホームベースを丁寧に踏むと、アルプスに向かって深く頭を下げた。 「応援が届いたんだよ。だってパパ言ったじゃない。応援は力になるって」 「そんなことが、あるのか?」 「すごいよ! パパは応援の力で奇跡を起こしたんだ!」    パパの夏は、まだ終わらない。  うれしさが弾けて、思わず私はパパに抱きついた。
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