10人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっつ……」
熱帯夜。じっとりと汗をかいた状態で目を覚ました私は、水分を求めて二階の自室を出た。一階のキッチンに行くため階段に向かう。廊下の突き当りにある大きな明り取りの窓からは、やわらかな月の光が差し込んでいた。
またすぐに寝るつもりだったから、電気は付けずに歩いた。寝ている両親を起こさないよう、忍び足で一段一段降りる。
足元にばかり気を取られていた私が顔を上げると、行く先にぼんやりと光る何かがあった。その手前には人影がゆらゆらと揺れている。
まさか、泥棒?
私は唾を飲み込んだ。より慎重に歩を進める。最後の一段を降り切り、リビングに足を踏み入れると、かすかに聞こえてきたのは知らない誰かの声だった。それはほとんど途切れることがなく、延々と話し続けている。
「攻めろ」「走れ」「落とせ」
聞き慣れた声がそこに混ざる。
キン、という高い音の後に歓声が上がった。
「パパ?」
私は光に向かって問いかけた。
振り向いた人影は、お化けでも見たかのような顔をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!