夏の魔物と密かな恋

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「あっつ……」  熱帯夜。じっとりと汗をかいた状態で目を覚ました私は、水分を求めて二階の自室を出た。一階のキッチンに行くため階段に向かう。廊下の突き当りにある大きな明り取りの窓からは、やわらかな月の光が差し込んでいた。  またすぐに寝るつもりだったから、電気は付けずに歩いた。寝ている両親を起こさないよう、忍び足で一段一段降りる。  足元にばかり気を取られていた私が顔を上げると、行く先にぼんやりと光る何かがあった。その手前には人影がゆらゆらと揺れている。  まさか、泥棒?  私は唾を飲み込んだ。より慎重に歩を進める。最後の一段を降り切り、リビングに足を踏み入れると、かすかに聞こえてきたのは知らない誰かの声だった。それはほとんど途切れることがなく、延々と話し続けている。 「攻めろ」「走れ」「落とせ」  聞き慣れた声がそこに混ざる。  キン、という高い音の後に歓声が上がった。 「パパ?」  私は光に向かって問いかけた。  振り向いた人影は、お化けでも見たかのような顔をしていた。
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