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「ダメじゃん」
「違う。まだツーアウトだ」
『捕球を見届けて二塁走者スタート! 解説の甲斐田さん、これは少し無謀な判断ではありませんか?』
『廣川君は俊足ですからね、まだ試合は中盤。ここは勝負に出るところですよ』
『センターの八田の返球速い。おっと、中継が少しもたついた! 握り直して投げる。間に合うか!』
三塁ベースを蹴った廣川君の走りはトップスピードに乗っている。ホームはもう目の前。だけど、そこにはセンター方向にミットを向けたキャッチャーが待ち構えている。
「行け!」
前のめりになって応援しているパパの背中から声が漏れる。
スライディングする廣川君の右足と、ボールを掴んだミットが交錯する。
『セーフ! 廣川、間に合いました! 端島高校一点。同点だ! 追いつきました! 三対三、試合はこれでいったん振出しに戻りました!』
どうしてアウトで走れるのかよくわからないけど、パパの高校が点を入れた。うれしい。チームメイトと喜びを分かち合う廣川君も、イケメンじゃないけど笑顔がまぶしい。
「すごいだろ」
「うん。すごいね。おもしろい。みんなイケメンに見えてきた」
私の返事にパパが笑った。
次の打者は一球目を見送り、二球目は空振りした。早過ぎて球種なんかわからない。ただ、相手の投手が強いことはわかる。解説のオジサンはやたらと投手の制球力と捕手の組み立てを褒め称えていた。
『スリーアウト! 端島高校なんとか追いついたものの勝ち越しならず。勝負はグランド整備の後、後半戦に入ります』
「グランド整備?」
「ああ。今がチャンスだ。お茶入れておいで。パパの分も持って来てくれるとうれしいな」
「サービスだからね」
動画なんだから、本当は一時停止できるでしょ? 結果だって知ってるクセに。
私は動画を止めたくないパパの気持ちを尊重してキッチンに走った。
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