夏の魔物と密かな恋

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 試合は三対三で膠着したまま進み、九回に差し掛かった。  相手チームの投手は交代したけれど、端島高校にはまともに投げられる控え投手はいないらしい。 「もともと部員数二十六人の弱小チームだったからな」 「それって多くないの?」 「多い所は百人超すよ」 「百人⁉ そんなのベンチにも入れないじゃん」  驚きに語気が強くなった私に対し、パパは変な顔で左眉を上げた。反対はされていないが、同調もされていない。 「二十六人でも、十人はベンチに入れなかったんだよ。今は二十人まで入れるらしいけどな」 「あ……、そうだね」  パパがアルプス応援団だったのをすっかり忘れていた。  チアリーダーがいないせいか、端島高校の応援席の様子が映る時はだいたいパパだった。打った捕ったで一喜一憂して、だれよりも一生懸命に声を張り上げている。厚手で真っ黒な学ランを着て両腕を振り回すパパは、大粒の汗を額に滲ませている。  横目で見ると、隣のパパの額にも前髪がぺったり貼りついていた。 『ここに来て三番、四番連続フォアボール! ワンアウト一三塁。三塁走者が戻れば陽誠館の勝ち越しです!』  疲れが出てきたのだろう。百二十球を超えて、神林君の制球は乱れていた。苦しそうに何度も袖で汗を拭っている。なんとかここまで凌いできたものの、限界は近いように見える。
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