夏の魔物と密かな恋

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「がんばれ、がんばれ」  両手を胸の前で組み、祈るようにつぶやく。  ピッチャーってなんて過酷なポジションなんだろう。真ん中に投げれば打たれ、ギリギリを狙ったらカットされて、ボール球は簡単に振って貰えない。アウトカウントが進まなければ、打者はいつまでもいなくなってくれない。  ワンボール、ツーストライク。息を吐き、キャッチャーの指示に頷いた神林君が投げる。ストレートが浮いている、高い!  キィンという音と同時に鋭い打球が一二塁感を抜ける。いや、前進していたライトが飛び込んでノーバウンドで捕った。土埃が上がる。これでツーアウト。残りの走者は。 『一塁走者飛び出している。戻る方が早いか。一塁に投げる。ああ、悪送球! 一塁手の足が離れている。二塁への進塁は防いだもののアウトならず。  その間に三塁走者が戻って一点追加。陽誠館勝ち越しです‼』  隣を見ると、このゲームの結果を知っているパパの顔がいつの間にか酷く険しくなっていた。  反則だけれど、シークバーを見れば動画の残り時間はわかる。七、八分程度だろうか。追いついて、延長戦になるほどの時間は残されていない。  きっと、裏の攻撃はすぐに終わってしまうのだろう。それでゲームセット。パパの夏は、そうして終わったんだ。
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