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綾美 Ⅱ
博さんの親友、フミくんと初めて会ったのは彼のサッカーの試合の日だった。初めてサッカーの試合というものを見た私にだって、フミくんが誰よりも上手だということがわかった。スタンドから見た広いグランドで、どこを見たときもそこに彼の姿があることに驚いた。
「ボールの側には、必ず彼がいるのね」
あの頃、まだフミくんのことを『林』と苗字で呼んでいた博さんは、そんな私の言葉に少し嬉しそうに鼻を擦る。
「そうだろ? 彼は特別なんだ。足がべらぼうに速いうえにまるで手で触っているみたいにボールを操るだろ。あんなこと他の誰にもできやしないよ」
珍しく饒舌に言った博さんは、まるで自分のことを褒められたように楽しげで、私はほんの少し嫉妬してしまったくらいだ。『もし私のことを誰かに褒められることがあれば、博さんはこんな表情をしてくれるのかしら』声に出さずにそんなことを考えしまった。
「林はクラスでも学校でもヒーローなんだ。ほらあそこに固まっているのはうちの高校の女子だよ。ほとんどが林のファンで、あの髪の長い子が彼の……彼女だよ」
博さんの言葉にそちらを見たときに、「林くーん!」という黄色い声が離れたところにいる私にも聞こえた。
「すごいのね」
女子校に通う私にとってそれは初めて見る光景だった。そんな人気者が博さんの親友ということが、私は鼻が高く感じて、そんな感覚がおかしかった。
「あんなにすごい人が親友っていうことは、博さんも凄いのね、きっと」
そんな風に言いながら、あんなに綺麗な女子たちが博さんの側にいることを想像するのは辛かった。
「ハハ、僕はまったく凄くなんてないよ、ただ林の名前が『博史』だったってだけさ」
「ひろふみ?」
「そう。博って同じ字が名前にある」
博さんからほんの少し自虐的なものを感じたのはそのときだった。
「そんなことないよ、博さんの人間的な魅力が彼に伝わっているのよ」
私の言葉は慰めのようにならなかっただろうか。博さんを傷つけはしなかっただろうか。
私のそんな小さな不安を取り払ってくれたのは、その後のフミくんの行動だ。
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