秘密

綾美 Ⅳ

「クリスマスの『TVロードショー』でやるんだ、俺、録画予約してた！　昔、付き合ってた女性(ひと)と映画館で観たんだけど、ストーリーはまあ普通だったけど、とにかく映像が綺麗でエモーショナルで、結構濃厚なセックスシーンもあるんだけど、アダルトビデオとはまったく違って綺麗だけど、なんか身体が疼いたっていうか、まあ若かったんだけど」
　フミくんは、ちょっと早口になって少し興奮しながら大発見と思い出を教えてくれていた。
　でも少し前までとは全然違う早口で、それはまるでうちで博さんとお酒を飲みながら私のわからない仕事の話をしているときみたいなスピードで、私は彼の言っていることをメモでもしながら聞きたい気持ちだった。クリスマスーTVロードショーー月夜の……。
「フミくん、『月夜の』なに？」
「月夜の恋人」
　急に質問をしたことで、私が混乱していることが伝わったようで、答えてくれたフミくんは「なに興奮してんだ、俺」と笑いながら頭の後ろで手を組んだ。

「クリスマスーTVロードショーー月夜の恋人。それを観ればいいの？　そしたら」
　質問を繰り返しながら『オーガズムがわかるの？』と続けそうになって、その言葉を飲み込む。
「そう。博と二人でワインでも飲みながら観ればいい。セクシーなシーンは頑張って観てみるべきだと思うけど、辛くなったら目を閉じればいいよ。ソファーに並んで座って観るのがいいかな、なるべくくっついて。俺があの映画を観たのは高校生の頃だから、この作戦はまあ幼すぎるかもしれないけど、あやちゃんにはちょうどいいと思うな」
　フミくんは頭の後ろで手を組んだまま、頷きながら微笑んだ。
　そうだ、フミくんは『結構濃厚なセックスシーン』って言った。心の中で言葉を反復するだけで耳が熱くなる。
　今まで観たことがある洋画では、そういうシーンはベッドインするところまでで、シーンが変われば翌朝の乱れたシーツか、シーツに包(くる)まって眠る男女だった。洋画のラブストーリーなんてあまり観たことはないけれど。　
　洋画で好きなラブストーリーは一番は『ローマの休日』次は『ティファニーで朝食を』。オードリヘップバーンが好きだから。『月夜の恋人』の俳優は誰なんだろう。『高校生の頃、観た』ってことはちょっと古い作品。『ローマの休日』ほどではないけど。

　フミくんがあんまり楽しそうに「作戦」って笑うから、私も楽しくなってきていたけれど、彼は大切なことを忘れている。
「でも、フミくん。TVロードショーの時間だと二人じゃなくて三人でしょ？　クリスマスなら」
　フミくんが大庭建設興産で働くようになってから、12月25日は一緒にうちでクリスマスパーティーをしてきた、三人で。もちろん今年もその予定で私はお料理のメニューも、ケーキのデザインももう考えてある。