39人が本棚に入れています
本棚に追加
毎年12月25日は、博さんとフミくんは一緒に帰ってくる。ワインや簡単なおつまみと、フミくんから私へのプレゼントを持って。そしてフミくんに私と博さんからのプレゼントを渡す。一緒に夕飯を食べながら、お互いのプレゼントを開けて盛り上がる。
昨年はフミくんから私へのプレゼントのボードゲームで遊んで、すっかり遅くなってしまってフミくんが泊まって行ったんだ。
最初の年はフミくんも博さんもすっかり酔っぱらって、博さんをなんとか起こしてベッドに連れて行った。フミくんはそのままソファーで寝てもらった。
よっぽど楽しかったのか、ベッドに運んでからも博さんの口から「フミくん……」という声が漏れていた。
気の置けない親友なんだなとしみじみ感じて、これから毎年12月25日は一緒に過ごしたいと思った。片付けをしながらソファーで眠るフミくんのイビキを聞いて、もし子どもが授かったらフミくんにサンタの役をお願いしようとか考えていた。
あれから何回もクリスマスが来たけれど、まだそのお願いは叶えられていないけれど。
そんなことをぼんやり思い出していたとき、フミくんがまたハンドルをポンと叩くと、
「今年は俺はきっと用がある」
と言ってから、私の方を向いてにこりと笑う。
「用?」
フミくんの言い方が面白いなと思いながら聞いたことに、彼はこくんと頷いた。
「だから二人で過ごして。博にも言っておくよ。わざわざビデオを借りるとかじゃなくて、二人で過ごすクリスマスの夜にそんな洋画があるんだ。ナチュラルに観れるでしょ?」
「博さんが残念がるかも」
「あいつとはいつでも会えるから心配ないよ。本社にいるときは上の階に行けばいいだけだ」
フミくんはそう言ってハンドルから離した左手で私の頭をポンと叩いた。そのリズムはきっとハンドルを叩いたときよりもずっと優しかった。そしてさっき本屋さんで買った絵本が入った袋をゴソゴソすると、ひとつの袋を取り出す。
「だからこれはあやちゃんへのクリスマスプレゼント。大冒険をしたあやちゃんに、大冒険をするかわいいお嬢さんの話」
そう言って私の手にビニールの袋に入った本を渡してくれる。
「でも、これは」
「プレゼント包装してもらう時間なかったからそのままでごめん。現場の小さな彼女には、まだアリスは早いから子豚たちにするよ」
本屋さんの紙袋には、白いビニールがもうひとつ見えた。フミくんは『不思議の国アリス』と『三匹の子豚』の両方を買っていたんだ。
でもきっと最初から私へのプレゼントと思っていたわけではないと思う。
「あやちゃんが買えなかった分に使ってもいいよ」
そう言って紙袋を後ろのシートに置いた。
「じゃあ、そろそろ帰りますか。久しぶりにこの車を運転したくなったから、このまま帰ろう」
そう言ってシートベルトを装着する。今、この車を運転するのは怖かったから、とても助かった。
「ありがとう。クリスマスプレゼントもありがとう、私が貰って私の宝物にします」
そう言って『不思議の国のアリス』の立体絵本が入ったビニール袋を抱きしめた。
「フミくん、ほんとにいっぱいありがとう、いろんなこと全部」
そう言ったとき、また泣きそうになる。でもこれは今日のどんな涙とも違う気がする。
フミくんは黙ったまま微笑んで、また私の頭にポンと手を置いてから、サイドブレーキを外して駐車場から国道へとスルスルと車を走らせた。
車が動き出したときに気がついた。足をゆったりと伸ばすことができている、いつものように。
最初のコメントを投稿しよう!