綾美  Ⅱ

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 圧勝した試合が終わったとき、フミくんはどこよりも先に私と博さんのところに来てくれた。スタンドで汗に濡れた熱い手と握手をしながら、私は博さんに婚約者として紹介してもらった。 「綾美さん、あやちゃんだね。まったくこんな可愛い婚約者がいるから、博はうちの学校の女子には興味がないんだな」  熱い掌で握った私の手を一度ぶんと振って彼は笑った。 「これからもよろしくね! 博のことも俺のことも」  握手を離しながら、彼はとても人懐っこい笑顔で言う。そんな笑顔は初対面の緊張を吹き飛ばすようだった。 「林さんのお名前には博という字が含まれるのですね」 「ああ、博史(ひろふみ)です」 「じゃあ、『フミくん』ですね」  初対面でしかも二歳も年下のくせに、偉そうにそんなことを言ってしまった私の一瞬の緊張を解いてくれたのも、彼の笑顔だった。 「それいい!! 博、これからはよそよそしく『林』なんて呼ぶなよ、『フミくん』だからな!」  私を救った彼の言葉に、博さんが照れたように頷くのを見て、フミくんは「じゃあ、これからもよろしくね! 今日は応援ありがとう! 博、また明日な」という言葉を残して、応援に来ていた女子たちの方に向かって行った。 「素敵な人ね」  彼の背中を見送りながら思わず漏れた私の言葉に、博さんは嬉しそうに頷きながら「そうだろ」と言った。私はもしかしたらそんなことを伝えるべきではなかったのかと反省しながら、だらりと体の横に垂らされたままだった博さんの手を繋いだ。博さんはそんな私の手をキュッと握りしめてくれた。私は少しほっとした。
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