記憶

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*** 彼が噴水の公園を通り過ぎたのを見たのと同時に私はその場に座り込んだ。 「何で、良かったじゃんとか言うのかなっ……」 面と向かって言えなかった想いが涙と一緒に溢れだす。 最後の最後まで、私は本音を言いきることなく彼との関係を終わりにした。 『いっそのことなら、冷たく突き放してくれればよかったのに』 『どうして優しく笑って祝福なんかするの? 私のこと、嫌いなんじゃないの?』 後悔なのか、不満なのかは定かではないがもやもやした気持ちが心を覆う。 結局、私は何を言いたかったの? あのひとに。そんな疑問の回答はすでに分かっている。 ほんとは、少しだけ、好きだったんだよ―――――。 そう伝えたかった。 決して長いとは言えない、瞬きくらい短い時期だけ恋心を寄せていた。 晴都のことはもちろん、好き。だってずっと想いを寄せていたのだから。でも、彼は何とも言えない複雑な想い、言葉では言い表せない。 これで良かったんだ、たぶん。 そう自分に言い聞かせ、頬をつたる涙を拭う。 空には淡い花びらが舞っている。 あの桜と一緒に彼とも思い出を何処か遠くへ飛んでいけばいいのに。 叶わない願いをせめてと、近くを流れる小川の水面にゆっくりと浮かべた。
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