心の欠片

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「大好きなあの子に、振られてしまったんだ」  泣き噦りながらそう訴えてきた男の子に、僕はプレゼントをあげた。心が不安定な僕は、丈夫な心を手に入れるために試行錯誤するうちに、取り替え可能な心の欠片を創ることに成功した。僕は、失恋して砕けた男の子の心の隙間を、ちょうど埋められるほどの心の欠片を渡した。  欠片を心の隙間に填めた男の子は、可愛らしい笑顔を取り戻した。 「お兄さん、ありがとう。おかげで元気になったよ。また誰かを、好きになってみる」  僕は同じような笑顔で男の子を見送った。心の欠片は、人を救う事ができるのだ。僕は心の欠片を売る仕事を始めた。  僕の商売は繁盛した。心の隙間は、人それぞれだった。大切な誰かを失って、大きな穴が空いてしまった心。好きなおやつを誰かに食べられてしまって、ほんの少し隙間ができてしまった心。大きさも形も様々な心の隙間に合う欠片を、僕は創り、売り続けた。笑顔になって帰っていく人々を見て、僕の心も満たされていく気がした。  僕は人のためだけではなく、自分の心を埋めるための欠片も創り続けていた。それらは、雨風にさらされて何度も朽ちかけた僕の心を繋ぎ止めてくれた。  ある日、僕のもとに一人の青年が訪ねてきた。彼は以前に、僕から心の欠片を貰ったのだそうだ。僕は記憶力が良い方で、人の顔と名前を覚えるのは得意なのだけど、不思議な事に、彼の事は思い出せずにいた。 「あなたに、どうしてもお礼が言いたかった。私の人生は、あなたに貰った心の欠片のおかけで、実に充実したものになっています。だから今日は、あなたにこれを返しに来ました」  僕は、青年から小さな心の欠片を受け取った。それはとても小さな欠片で、光を失っていた。 「それは、私が幼い頃に落としてしまった心の欠片です。その時にできた心の隙間はあなたに貰った欠片で埋めたから、その欠片はもう要らないのだけれど、今日までずっと、持っていました。自分でも何故持っていたのか分からなかったけど、あなたの事を思い出したのです。だからそれを、あなたに返さなければ⋯⋯」  それだけ言うと、青年は何処かへ消えてしまった。    僕は変わった。脆い心を持ったあの時の、弱々しい子供ではない。変わり続けた心は、欠片を埋め合わせていくうちに、全てが入れ替わってしまったようだった。だからこの欠片を受け取るまで、あの青年が僕だと気づかなかったんだ。  僕は、もう二度と填めることのない心の欠片を握り締めた。脆く弱々しいあの時の心のために、ただ祈る事しかできなかった。
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