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七嶋先生と雪ちゃん
七嶋理人は、大学病院に勤務する研修医。
長身で、筋肉のしっかりついた体つきに、医師らしからぬ整った甘い顔。そして将来有望な医師ということもあり、患者さんに人気なのはもちろん、病院内の看護師から女医まで、彼を狙っているらしい。
「雪ちゃん、殺されちゃうかもね」
バイトを始めて数日で私は同僚にそんなことを言われた。理由は当然、ぽっと出のバイトの女に、七嶋先生が告白をしたからだ。
縁あって夏休み限定でバイトをしているというのに、それがきっかけで殺されちゃうかもね、なゆて冗談じゃない。
「早く終わらないかな、夏休み」
「七嶋先生に会えなくなっちゃうよ?いいの?」
「いい。むしろ関わりを断ちたい」
「え〜!あんなイケメンに迫られるなんて、最高じゃない?」
「私、死にたくないんで」
1日6時間、10時〜16時まで。それが私のシフトだった。この時間のどこかに、七嶋先生は必ずやってくる。
「雪ちゃん、今日も可愛いね」
ほら、噂をすれば、今日も。
「ご注文は?」
「雪ちゃんで」
「…アイスコーヒー、レギュラーでお願いしまーす」
いつも通りの軽口に、私もいつも通り注文する。
七嶋先生はカフェラテか、アイスコーヒー。その日の疲れ具合とかで、おそらく変えている。それも、1ヶ月近く働いているとわかってくるので、今ではもういちいち聞き出したりはしない。
「七嶋先生、今日も雪ちゃんに会いにきたんですね!」
「うん、もう雪ちゃんに会えないと1日辛い」
「わ〜、溺愛ですね!」
渡し口で商品を渡す同僚は、七嶋先生を応援しているらしくこうしてよく雑談をする。
基本的に、周りはみんな七嶋先生を応援しているらしく、レジでくだらないやり取りをしていても、それを生暖かい目で見ているらしい。止めてくれていいのに。
「でも、七嶋先生、そろそろ本気出さないとやばいですよ?」
「なんで?」
「雪ちゃん、今週で終わりですから」
そう同僚に言われた七嶋先生は驚いた表情で、私を見る。私はどういう顔をしていいか分からず、七嶋先生の視線を感じたけれど、その方向に顔を向けないようにした。
夏休み限定のバイトだ。
夏休みもあと一週間で終わりなのだ。
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