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「イタリアンにはまだ早いから。少し話しでもしてから行こうかと思ってるんだけど、七瀬はどこか行きたいとことかある?」
少しだけノイズの入ったハスキーな声は、まるで子供を相手にするみたいに優しく聞いてくる。実際年上だったとは思うけれど良く覚えてない。子供扱いされるほどには離れていなかったはずだ。
「特に。だったらもっと遅い時間にすれば良かったじゃない」
「七瀬の迷う時間も考慮してたから」
はははと笑う顔に「やっぱり期待を裏切ったってことじゃない」と唇を曲げれば「ごめんごめん。それだけじゃないよ」と返してくる。
「一番の理由は七瀬と話す時間を増やしたかったから」
「……」
「ほら、俺一途だからさ」
どこまでが本音で、どこからが冗談なのか分からない。さらりと告げられた言葉はさらりとは流れてはくれず、洗ってもあらっても落ちない弁当箱に残る油膜みたいに薄くうすく、でも確実に私の耳の奥に貼り付いていく。
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