ソフトに強引

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(早めに帰って収穫なしって伝えようかな)  そんなことをぼんやりと考えていたら、目の前に透明な炭酸が入ったグラスを差し出された。 「どうぞ」 「あ……どうもありがとうございます」  断るタイミングを逸してそれを受け取る。 「交流出来てます?」  その男は日に焼けた髭面をくしゃりと緩めた。胸元に下がったネームホルダーには主催のSメディアという会社名と浅井和喜という名前があった。 「そうですね。沢山の方と名刺交換させて頂きました」  にっこりと営業用の笑顔を作る。いくら普段関わらない業種だとしても、同じオフィスビルに勤める人間だ。いつどこですれ違うか分からない。愛想くらいは良くしておかなきゃ、会社命令とは言え参加した意味がない。  けれどその男は早々に口調を崩し、そんな硬くならなくても良いよ、と笑った。
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