ソフトに強引

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 浅井は視線を私の顔に戻して言う。 「小さい頃とかよく言わなかった?」 「そんなの初めて聞いたけど」  私の返事に顎から手を外し、やっぱり本音の分からない笑顔で「ああ、違ったかも」と流れるように続けた。 「手が冷たい人は心が優しいだったかな」  そう言って紙コップのドリンクに手を伸ばす。私は嘆息した。 「全然違うじゃない」 「そうかな? そんなに変わらないと思うよ」 「変わらないって言うあんたの感覚が分からないわ」 「至って普通のつもりなんだけどね」  そう嘯いて紙コップを傾ける。いつもアイスコーヒーだって言っていたから、今日の中身もきっとアイスコーヒーなんだろう。コップを持つ手が思ったよりも大きくて、その先にある黒い革バンドのスマートウォッチが小さく見えた。あの画面は結構大きいはずなのに、腕や手首も太いからそう見えるのかもしれない。 「七瀬はきっと手が冷たいよ」  フォークを咥えるとレタスがシャリリと音を立てる。
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