ソフトに強引

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「やぁ。思ったより早かったね」 「どこが早いのよ」  浅井はあのスマートウォッチのデジタル表示を私の方に向けて「一時間経ってないから」と笑った。 「随分気が長いのね」  私はアイスコーヒーのグラスをテーブルに置き、浅井の正面に腰掛ける。 「七瀬はきっと家を出る直前まで……いや違うな、きっとこの店の前でも、行こうか、いや止めようかって迷うはずだと思ったから。だから一時間の遅刻なんて織り込み済みさ」 「それはそれは。期待を裏切ってごめんなさいね」 「裏切ってなんかいないさ。遅れても絶対に来るって思ってたから寧ろ予想通り」  そう言ってテーブルの上で両手を組み合わせた。十七時二十五分。悔しいかな浅井の言う通り、五分前には店の近くまで来ていたのだけれど、行こうか行くまいか悩んでしまいこの時間だ。行くとは一言も言っていないのだから、行かなくたって私に非はない。あのLINE一つで約束をしたつもりになった浅井が悪いのだから。  けれど私は結局来てしまった。これでは浅井の思う壺じゃない。
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