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A子に全身を舐め回されていた時は、気分が悪いのと気持ちが悪いのと解き放つ術もない熱が身体中を駆けめぐって意識がぶっ飛びそうなのと、とにかく「早く終わってくれ」と思ったものだが。
向こうは向こうで、勃ったところで大人の親指程度のソレでは満足を得る事も出来なかったに違いない。
結局A子は早々に次のオトコを探し出し、家に引っ張り込んだ。
俺の未認知の父親から数えて3人目に当たるこの「C雄」は、A子にとっても運命のオトコだっただろうが、俺にしたって俺の運命を変えた人間だから忘れようったって忘れられない。
ロクデナシ…という単語は、C雄の為に存在している……と俺は確信している。
C雄が家にやってきた日から、俺の生活は一変した。
その辺の事はA子ときちんと話をした事がないので俺の想像なのだが、多分このC雄は俺の未認知の父親に性格的に酷似していたのではないかと思う。
大法螺ばっかり吹いて、実際はなにも出来ない矮小なカスに過ぎず、オンナの稼ぎで自分が遊び歩くようなオトコ……だ。
遊ぶ金がない時はA子のアパートでくだを巻き、金がないと言ってはA子と俺を殴りつける。
しかし、それほど経たないうちにC雄は新しい金のかからない遊びを思いついた。
自分よりも非力で、他人に咎められる事もなく、いじめ倒せるオモチャ………つまりは俺の存在に気付いたのだ。
だらしないA子が俺にきちんと躾が出来ている訳もなく、俺は物が散らかっているのが普通だと思っていた。
だから、俺に難癖を付けて暴力を振るうのにいくらでも理由をこじつける事は出来た。
靴の脱ぎ方がなってない、帰ってきた時に「ただいま」と言わなかった、大人に対する態度がなってない、箸の持ち方が悪い、座り方が悪い…………etc.etc...
初めのうちは容赦もなく顔を殴ったりしたが、通っている学校から「虐待ではないか?」と指摘されてからこちら目立たぬ場所に暴力は移動した。
背中や腿の内側にタバコの火を押しつけてみたり、座れなくなるほど尻を叩いてみたり、それはもうやりたい放題だった。
まぁ、それはそうだろう。
A子も最初は止めようとしたが、所詮は「堕ろしてしまいたかった邪魔者」と「精神の拠り所のオトコ」を比較して、そこで子供を選択出来るようなタマだったら最初からそんなオトコを連れ帰ったりはしないだろう。
最初からアテには出来なかったが、しかし「唯一」の頼みの綱がC雄に荷担した事によって、狭いアパートの中の覇権争いは決定した。
つまり、C雄はこの家の中の「絶対の神」となったのだ。
神のC雄に仕える巫女はA子、そのキャスティングの中で俺に与えられた役名は「生け贄」だった。
そして学校に行かせるとなにかと小うるさいとなった二人は、最終的に「登校拒否で引きこもりになった」と称して俺をアパートの部屋から出さなくなった。
表に助けを求める最後の手段さえも失い、残虐な神とその下僕である巫女に支配された狭い世界で、俺は自分の生命がこのままここで終わりを告げるのだろうと浅はかなガキなりに予感したのだ。
A子が夜の仕事をしている事もあったし、どちらも同じぐらい自堕落な性格をしていたから、生活サイクルは基本的に昼夜逆転状態で、夕方A子が勤めに出た後C雄がひまつぶしに俺への「躾」をしてA子が戻った後は二人がかりで「躾」の続きか、C雄の気が向いた時は半ば意識を失いかけてそこに倒れている俺の目の前でセックスに耽っていたりした。
最後の日。
それはいつもとなんら変わりのない、普通の日だった。
A子が戻り、C雄が腹が減ったと言ってA子にラーメンを作らせて二人は夜食をとっていた。
もちろん俺の分など無い。
なんやかやと言い掛かりを付けては、罰と称して食事を与えられないのは日常だったし、ヤツらにしてみれば俺に食事を与える事は家計の損失だったからだ。
深夜テレビを見ながら夜食を食っている二人に、俺は黙ってそのままいつもの取っ組み合い(その頃はまだガキだったからセックスなんて単語は知らなかった)をしてくれと必死に願っていた。
とりあえずそっちを始めてくれれば、俺には構っていられなくなるから少しだけ眠る事が出来る。
二人は昼間、好きなだけ惰眠を貪っていられるがどちらも凄まじいイビキをかくし、一晩中折檻をされた後では体中が痛くて眠ってなんかいられないのだ。
だから、二人が情事に耽ってくれる時だけが俺のささやかな睡眠時間に充てられていた。
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