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旅立ち
ベルトサインが消えた。
私はゆっくりシートベルトをはずして一息つく、離陸と着陸の時はいつも息がつまる思いがする。
視線を落とすと明るい陽の光が私の手の甲を照らしている。
顔をあげて窓の外を眺めた。
ああ、良い天気……。
地上では曇りだったのに、雲の上は澄み切った青空だ。
眩しい。
遠ざかっていく空港。
もうすぐ娘に会える。
不慣れな海外の仕事を無事に終え、飛行機の中で娘のいる日本に想いを馳せた。
前方から飲み物のサービスがはじまりだしたので、私も何か飲もうとメニューを見た。
その時、隣に座っている少女がキャハハと歓喜の声をあげた。
ちらりと見るとおままごとセットを母親から手渡されて笑っている。
自分の娘と同じくらいの少女が愛らしく遊ぶのを目を細めて見た。
可愛い、おままごとが好きなのかしら?
クルクルとよく動く小さな手を横目で追う。
「はい。ママも食べてね」と、セットの中から一番目立つ赤いチキンライスを母親に差し出している。
母親もそれを受け取り、嬉しそうに「美味しい、美味しい」と答えている。
少女は満足げに頷いて、ニコニコしていた。
フフ、とつい私も微笑む。
娘も、良く笑っていたな……。
なのに……最近は、どうしてあんなにも嫌がって怒って、ばっかり……?
溜息まじりに、娘のことを考える。
嫌われているのだろうか。私が良い母親じゃない、から。
ガシャーン! と、横から聞こえた音にビクッと驚く。
隣を見ると、少女のおままごとセットが床に散らばったようだ。
チカッと閃光のような頭痛と共に記憶のすみをサワサワと撫でられるような感覚に陥っていく。
視界がぼやけて機内の様子が霞んで……。
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