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夜中、男が一人の部屋で寝ていると、ぱらぱらと顔に何かが振りかけられた。
「!? ぺっぺっぺ!」
驚いて飛び起きて、慌てふためいて吐き出すが、幾つかは口の中に入って喉を通っていってしまった。
「一体何だってんだ……?」
明かりを点けて辺りを見渡す。枕元には何の変哲もない植物の種が、有り得ない数転がっていた。
農家でも家庭菜園が趣味な訳でもない。そんな自分の家に何故こんな物が……?
そう思っている内に、猛烈に腹が痛くなってきた!
「いたたたた! な、なんだ!?」
苦しみ悶えていると、体の中から何かが逆流してくる!
「おえぇぇぇ」
男は盛大に吐き出した。ずるりと男の口から漏れ出てきたのは、巨大なブロッコリーであった。
「……?」
「私は生まれた」
ブロッコリーがやたら低い声で喋った!
「あなたを愛する為に」
「ど、どういう事?」
「この心臓が刻む、一つ一つの鼓動と共に」
「植物なのに心臓があるのか……?」
いや、つっこみどころはそこではない。いや、つっこみどころしかない。何故男よりも巨大なブロッコリーが男の中から生まれたのか。何故喋るのか。どうしてクイーンの歌を和訳してるのか。
「さあ、私を食べてくれ。手を取り合ってこのままいこう」
ブロッコリーはおもむろに両手を広げ、抱きしめようと迫ってくる!
「やめろ! 近寄るな!」
男は咄嗟に部屋に立てかけてあったさすまたでブロッコリーの侵攻を阻む!
ブロッコリーはそれにも構わずこちらに近づいてこようとしてくる!
何て力だ!
男がめいっぱいさすまたに力を込めて抑えつけようとするが、それも叶わず後退を余儀なくされ、やがて石突きが壁に刺さって何とか距離を保つ事が出来た。
「ママ~、ウウウウ~」
「怖いわ! ママじゃないわ!」
「ガリレオ? ピカソ?」
「違う違う!」
男はこの状況をどうにか脱出しようと、さすまたのスイッチを入れた。
ジャキン!
さすまたからかえしのような棘が生え、ブロッコリーの身体に食い込ませていく! 植物特有の体液と臭いがそこら中に拡散していく!
「アア~! 自転車に乗りた~い!」
「ええい、このまま成仏せい!」
スイッチを何度も押して、棘を伸ばしていく! その内にブロッコリーは絶命し動かなくなった。
残されたのはグチャグチャになった部屋と、巨大ブロッコリーの死体と体液だけであった。
「何なんだよ、これ……」
そう呟いた瞬間、目が覚めた。
男は状況を確認した。夏も終わりに近づいた夕方、涼んできてうたた寝をしていたのだ。
クイーンの音楽をかけながら寝入っていたらしい。昼に食べたブロッコリーが歯の間に残っていた。
「……だからって、こんな夢はないよな」
寝汗でぐっしょりの身体を持ち上げて、夏の残り香を冷たいシャワーで流しに浴室へ向かった。
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