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十子の手が止まった。
縲の声が意識から遠ざかり、代わりにクメと駒藤への怒りが喉もとへせりあがる。
どうしてあのふたりはもう少し心を広く持てないのだろう。
自分はこんなにも我慢しているというのに──。
「──こさま? あのう、十子さま?」
十子ははっとわれに返った。
縲が少し心配そうにのぞきこんでいた。
「……ごめんなさい、少しぼうっとしてしまったみたい」
「え、やっぱりお加減が!? 大変!」
縲ははじけるように立ちあがるや否や、自分がかけられていた毛布を十子に逆にかけてきた。
十子はあわてた。
「だめよ! あなたはさっきまで外にいたんでしょ、温まらないと」
「あ、じゃこれで」
「きゃ!」
毛布の端をつまんで十子の隣にもぐりこんできた縲は、申し訳なさそうな顔になった。
「ご無礼失礼いたします、でもこれならどっちもあったかいでしょ?」
「……そうね」
ひと昔前、米国留学での寮生活が十子の脳裡によみがえった。
夜、友人たちとこっそり集まって、毛布をかぶって、マシュマロを焼いて。
困ったときには助けてくれる誰かがいることを無邪気に信じられた、いま思えば幸福な時間だった。
「マシュマロがあったらよかったわ」
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