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「たしかにふたりとも善人だとは言わないわ。クメはなんでも自分の思いどおりにしたがる独善の人、駒藤は周囲すべては自分より劣ると考える傲慢の人。でもできるのはわたしに互いの悪口を吹きこむことくらいで、この家に火をつけるほどの悪人とは思えないわ」
「でもそうすると、誰がなんのためにあんな火事騒ぎを起こしたのか、もっとわからなくなっちゃう」
「ええ、まだ夕方だったし、あんなガラス張りの部屋だもの。火が広がる前に見つかったと思うの。だからあれは、家ごと燃やそうとしたのではなくて、何か別の目的があったはずだわ。騒ぎを起こしているすきに盗むとか──あなたが心配してくれたみたいに」
んんっ、と縲は軽く喉がつかえたかのように咳ばらいをした。
そして話を変えた。
「こんさばとりいの鍵がどうして内側に落ちていたのか、あと誰が持ち出したのかはまだわからないんだけど、燃やしたものはわかったの。楓次さんが調べてくれて」
「宮芝が?」
どこかつかみどころのない第二御者が、この事件を他人事として楽しんでいることは容易に想像できた。
そもそも火事を消し止めたあと探偵を呼ぼうと言い出したのも彼で、コンサバトリーでも縲に話しかけていた。
いつもは寝坊で怒られていることが多い彼だが、きっと今朝は早起きだったに違いない。
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