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縲が一瞬ぎょっとした。
十子はそれを見逃さなかった。
幸せな記憶に包まれていた感覚が急速に薄らいでいく。
「──彼が怪しいの?」
「えっ、ううん、全然。それよりなんで、十子はそんなことを? 逆に聞くけど、怪しいところあった?」
「そんなこと、まったくないわ。彼はいい人よ。ちょっと不愛想だけれど、真面目で働き者で、優しい人だわ。でも今朝、あなたはまた彼と話しこんでいたようだったから。夕べも話を聞いていたのに」
「へっ──あ、ああ、今朝庭でね。ここから見えたんだ」
「ええ」
「別に疑ってるわけじゃないんだけど、ただ最初に見つけた人だから、いろいろ細かく何度も聞いておこうと思って。それだけ」
縲はそう言うが、どうもおかしい。
目は一生懸命十子を見ているが、体は離れたがって見える。
「……縲、本当のことを言って。彼が怪しいなら、わたしはこの家の主人としてきちんと責任を果たさなくてはいけないわ」
「いやほんと怪しんでるんじゃなくって──」
「じゃあ何? その様子だと、ただ火事について聞きたいだけじゃないでしょう?」
縲は一瞬きつく目をつぶると、ぱっと目を開けた。
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