1 謎めいた男爵家(2)

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 そこで彼に持ち掛けられたのが、悩みをかかえる子爵夫人を訪ねて「探偵」を名乗ることだった。  うまく行ったら自分の新聞社の婦人記者にしてやる、と言われては、断る理由はひとつもない。  手回しのいいことに、田友は子爵家のひいき店のおかみから紹介状を手に入れてきた。  紹介状と洋装を武器に、縲はすらすらと子爵夫人に会い、行方不明になった書生の話を聞き、彼の捜索を頼まれ──いや、命じられた。 (こんな雲をつかむような捜し人、普通だったら引き受けるわけがないけど)  しかし実のところ、縲は書生を捜す必要もなければその事情を聞く必要もなかった。  今回の事件、縲は最初からすっかりわかっている。  書生も実は田友の仕込み。  子爵邸から行方をくらますことまでが、田友の書いた筋書きだったのだから。 (わたしの仕事は、子爵夫人にそれっぽい話をするだけ)  難しい仕事ではないと思ったし、現にうまく行った。  これほとんど詐欺じゃ、というかぼそい良心の声には、とりあえず我慢していてもらう。  誰も傷つかず、そのうえ子爵夫人はすっかり満足したのだから、芝居よりももっと真に迫った華やぎのお代として許してもらいたい。 「残った手紙は? よこせ」
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