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「あっあのね、好みで!」
照れくさいのか、縲はぎこちなく笑った。
「ああいう感じの男の人って、昔っからなんか好きで。だからついつい、用事作って話したくなっちゃって。ごめんね、まぎらわしいことしちゃって」
「……そう」
十子はつぶやいた。
決して大きくはないにしても、心のどこかがぽかりと開いた気がした。
縲は、今度は逆に詰め寄ってきた。
必死さすらある。
「ね、でもこれ内緒だよね、ここでの話って全部内緒でいいんだよね!?」
「ええ、もちろん」
どこか上っ面な返事になってしまったことを十子は自覚した。
縲はまたバルコニーから帰っていった。
無事に飛び移って手を振った彼女に手を振り返してから、十子は自室に戻り、閉めたガラス戸に軽くもたれた。
背に忍び寄る夜の冷気が、いまの心にはしっくり来た。
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