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§ § §
十子が自室に戻ったことを確認してから、縲は急いでバルコニーから身を乗り出した。
飛び移ろうとして手すりに足をかけたとき、壁際に尤雄を見たからだった。
十子を気にして声は出さず、それでも帰れという意思がはっきり伝わるよう、下に向けた手を大きく振る。
それを見た尤雄はぷいと背を向け、立ち去った。
縲は客室に戻ってベッドに飛びこんだ。
(……なんでまたいた、柳尤雄ぉ!!)
ふかふかした枕に顔をうずめ、縲はそれがあたかも尤雄の襟もとであるかのようにぎゅうっと握りしめた。
さらにはぼふぼふ殴りはじめる。
(足がすべるかと思ったじゃない! それにあんな恥ずかしすぎるうそをつかせてくれちゃって、どうしてくれんのよ!!)
八つ当たりすんなと本人にはそっけなく斬り捨てられそうだが、縲の怒りはおさまらない。
そもそも尤雄を心配したからここに来て、万が一にも十子に怪しまれてはいけないと思ったからこそ、あんな心にもないうそをつくはめになったのだ。
ただひとつ救いがあるとすれば、石頭の唐変木ゆえに事情を話せば妙な誤解はしないだろうということだった。
(うんそう、大丈夫。だから明日、一応言っとこ……)
明日の方針は決まった。
とはいえ、今夜も眠るには苦労しそうだった。
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