4 うずまく疑い(1)

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「さっき執事に調べてもらったのよ。忙しがってたけど、なんてったってこっちの後ろ盾は男爵令嬢ですからね」  縲の要求に従うしかなくなって頬をひきつらせていた駒藤(こまふじ)を思い出し、縲はにやにやした。 「楓次(ふうじ)さんが台帳じゃないかって言ってた燃え残り、やっぱりそうだったみたい。銀行から監査があるのに帳簿がどうたらって、執事がかなりあせってたわ」  尤雄が手を止める。  だけでなく、肩越しにふりかえった。 「かなりも何も、帳簿ならお(いえ)の重要書類じゃねえか。執事の責任問題にもなるだろうよ」 「そうなんだけど、それはそれとして。探偵としては、火つけ犯がなんで、どうやって帳簿を持ち出して燃やしたのか、そっちが問題よ」 「きな臭えことになってきたな」 「そりゃもともと火事だしね」  縲の軽口は当然のごとく無視される。 「この家の財政を取りしきってるのは、あの銀行員あがりの執事だ。ここは田友(あいつ)が目をつけるほどの分限者(ぶげんしゃ)だぞ、金の動きは相当に多くて複雑なはずだ。帳簿にはそれが全部載ってる」  無視はおもしろくなかったが、尤雄の指摘は状況整理の筋道をつけてくれる。  縲は額を指で押した。
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