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「さっき執事に調べてもらったのよ。忙しがってたけど、なんてったってこっちの後ろ盾は男爵令嬢ですからね」
縲の要求に従うしかなくなって頬をひきつらせていた駒藤を思い出し、縲はにやにやした。
「楓次さんが台帳じゃないかって言ってた燃え残り、やっぱりそうだったみたい。銀行から監査があるのに帳簿がどうたらって、執事がかなりあせってたわ」
尤雄が手を止める。
だけでなく、肩越しにふりかえった。
「かなりも何も、帳簿ならお家の重要書類じゃねえか。執事の責任問題にもなるだろうよ」
「そうなんだけど、それはそれとして。探偵としては、火つけ犯がなんで、どうやって帳簿を持ち出して燃やしたのか、そっちが問題よ」
「きな臭えことになってきたな」
「そりゃもともと火事だしね」
縲の軽口は当然のごとく無視される。
「この家の財政を取りしきってるのは、あの銀行員あがりの執事だ。ここは田友が目をつけるほどの分限者だぞ、金の動きは相当に多くて複雑なはずだ。帳簿にはそれが全部載ってる」
無視はおもしろくなかったが、尤雄の指摘は状況整理の筋道をつけてくれる。
縲は額を指で押した。
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