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「それが燃やされたってことは、帳簿があったら都合が悪いって思う人がいたのよね。あんな物、わざわざ火口になんてしないもの。新聞紙だってなんだって、ほかにいくらでももっと火がつきやすい物があるんだから」
ならば、都合が悪いと思ったのは誰か。
「一番怪しいのは、もちろん執事の駒藤だわ。仕事に見せかけて何かうさんくさいことをやってた記録を残してたら、悪事の証拠になるものね。それを確かめられそうになったんだったら、すぐにでも燃やさなきゃ」
「城狐社鼠の輩か。だが帳簿がないって気づいたらあせってたんだろ」
(じょうこしゃそ?)
おもいがけず難しい言葉が尤雄の口から飛び出したことに、縲は驚いた。
意味はわからなかったが、本題とは関係なさそうではあるし、そもそも尋ねて教えてもらえるかどうかも怪しい相手だ。
縲は話を続けることにした。
「お芝居なんて誰でもできるじゃない。わたしだってこんな探偵芝居をしてるんだし。あんただってそうでしょ?」
それでいまの立場を思い出したのか、尤雄はまた作業に戻った。
縲はかまわず、勝手に話を続けた。
「でも、だったらどうして執事は、わざわざあんなところで燃やしたんだろ? こっそり自分の部屋の暖炉で燃やせばすむ話よね。それにこんさばとりいの鍵の問題もあるし」
「鍵の管理は執事じゃねえのか?」
「それが、厨房まわりとこの鍵だけは女中頭が持ってるの。本人も自分が持ってたって認めたわ。ただいつの間にか鍵束からなくなってたんだって」
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