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植木の枝の手入れを終えた尤雄が梯子を下り、花壇へ移動した。
縲もついていった。
小菊に似た薄紫色の花や、もくもくと白い雲のようなたくさんの小花が咲いていた。
尤雄が手入れを始め、秋風にほのかな甘い香りが混じる。
(こんなきれいなお屋敷なのに。なんで十子がいやな思いをしなきゃいけないのよ)
まるで少女のように──そして友達のように──笑っていた昨夜の彼女を思い出して、縲は義憤をおぼえた。
いたずらっぽく、明るく、楽しそうで。
あれがきっと十子の素顔だ。
自分の家だというのに素の自分を出せないとは、考えただけで息が詰まる。
(絶対解決してやるんだから!)
決意を新たにしたところに、尤雄の声がした。
「それも、女中頭の芝居かもしれねえな」
縲は勢いよくうなずいた。
「そう! 鍵がいつまで鍵束にあったかなんて、誰も知らないもの。それに火つけ犯が女中頭だとしたら、どうして鍵のかかったなかに鍵が落ちてたかも説明できるわ」
尤雄は、手を止めもしなければ視線をよこしもしない。
それでも聞いてはいそうな背中に向かって、縲は言った。
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