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「火をつけて、外に出て、鍵をかけるのよ」
「それから鍵をなかに投げ入れられるような隙間なんて、あそこにはねえぞ」
「隙間なんか要らないわ。火事騒ぎになったあと、自分もなかに入ったときにこっそり落とせばいいじゃない。見つけたのは?」
「おれだ。火が消えたあと、ふと見たら床に落ちてた」
「火消しのときには気づかなかった?」
「目の前に燃えてるもんがあるときに、小せえ鍵なんて気にしてられねえよ」
「そうよね、そこを利用されたのよ」
縲は得意顔で言った。
尤雄がいったん手を止め、冷ややかな横目に見てきた。
「女中頭が火をつけたとして、だったら嫌いな執事の帳簿を燃やして何をしたかったんだよ? 悪事の証拠だったんなら残しとかなきゃ話にならねえし、単なるいやがらせなら隠しゃすむ話だ。わざわざ火事騒ぎを起こすことはねえだろ」
「……まあたしかに、それがふしぎよね」
縲は息をついた。
さっさと作業に戻った尤雄の背中に、今度はほとんどひとりごととして話しかける。
「執事が火つけ犯だったら、帳簿を燃やした件は説明できる。でも、なんであの場所を選んだのかはわからないし、そもそも執事はあそこの鍵は持ってなかった。女中頭が火つけ犯だったら、鍵の件は説明できる。でも、わざわざ盗んだ帳簿をなんで燃やしたのかがわからない……」
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