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ほかの使用人はどうかと、縲も考えてはみた。
ただ執事から帳簿を、女中頭から鍵をそれぞれ盗み出すとなると、単純に言って難易度は倍になる。
なのにそこまでして起こした放火事件は、犯人も目的もはっきりしない。
「そうだ、執事と女中の仲が悪いのは見せかけってことは? ふたりで協力して謎の事件を起こして、うやむやのうちに帳簿を処分したかったとすれば説明がつくじゃない」
背中を向けたまま、尤雄が言った。
「だとしたらたいした役者ぶりだな。金のある中年男がわざわざ白髪交じりに手を出すか?」
「えーと、うんと年上趣味とか」
「そりゃ世間にはそういう男もいるかもしれねえが、執事は違う。あれで結構な鼻下長で、河岸を変えて何人かなじみの妓もいたはずだ」
「うわ最低。んー、じゃ実は親子とか姉弟とか」
「女中頭がいつ産んだんだよ。いま五十過ぎだろ、執事は四十の坂はとっくに越えてたはずだ。齢が合わねえ。それに亡くなった奥方付きだったんなら、ちゃんとした家の出だろうよ。執事がその縁者なら、とっくに話に出てるんじゃねえのか」
「じゃあなんなのよ?」
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