1 謎めいた男爵家(2)

5/7

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/133ページ
 田友に言われた縲は、合切袋(がっさいぶくろ)から封書を出した。 「わたし、ちゃんとやりましたよ? これで記者に──」 「ばかが、まだ仕事の途中だ」  田友は長火鉢にかけていた鉄瓶をどかすと、火を掻き立てて封書ごと手紙をくべた。  手紙はさっと燃え上がった。 「いいか、本当の狙いは江那堂(えなどう)家だ」 「江那堂家……?」 「男爵だ。当主はのんきに外遊中だが、どういうわけだかやたらと羽振りのいい華族でな。だからあの子爵のかみさんは、何かにつけ江那堂のところの嬢ちゃんと仲良くしたがる。だから遠からず、必ずやおまえの話もするはずだ。本番はそこからだ」  初めて聞く華族の名に縲はぱちくりとまばたいたが、すぐにやる気に満ちた顔になる。 「わかりました。その江那堂男爵家で、今度はどうすればいいんです?」 「またこっちの手引きで事件をでっちあげる。おまえはそいつを解決して、嬢ちゃんに取り入るんだ。江那堂家は新華族、先祖は一介の武士だったくせにいまはあの大尽(だいじん)ぶりだ、後ろ暗い話があるに違いない。正義を守る新聞社として見逃しちゃおけん」  田友はまた笑みのかわりに顔をゆがめた。  そして縲を見てきたので、縲はおもわず軽くのけぞった。 「だからいいな、絶対に江那堂家の財産の秘密を探り出すんだ」
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加