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田友に言われた縲は、合切袋から封書を出した。
「わたし、ちゃんとやりましたよ? これで記者に──」
「ばかが、まだ仕事の途中だ」
田友は長火鉢にかけていた鉄瓶をどかすと、火を掻き立てて封書ごと手紙をくべた。
手紙はさっと燃え上がった。
「いいか、本当の狙いは江那堂家だ」
「江那堂家……?」
「男爵だ。当主はのんきに外遊中だが、どういうわけだかやたらと羽振りのいい華族でな。だからあの子爵のかみさんは、何かにつけ江那堂のところの嬢ちゃんと仲良くしたがる。だから遠からず、必ずやおまえの話もするはずだ。本番はそこからだ」
初めて聞く華族の名に縲はぱちくりとまばたいたが、すぐにやる気に満ちた顔になる。
「わかりました。その江那堂男爵家で、今度はどうすればいいんです?」
「またこっちの手引きで事件をでっちあげる。おまえはそいつを解決して、嬢ちゃんに取り入るんだ。江那堂家は新華族、先祖は一介の武士だったくせにいまはあの大尽ぶりだ、後ろ暗い話があるに違いない。正義を守る新聞社として見逃しちゃおけん」
田友はまた笑みのかわりに顔をゆがめた。
そして縲を見てきたので、縲はおもわず軽くのけぞった。
「だからいいな、絶対に江那堂家の財産の秘密を探り出すんだ」
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