4 うずまく疑い(1)

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「そういえば、あんたにはほかにも聞きたいことがあったのよ」 「なんだよ」 「狸親父の新聞社に行ったとき、脅迫状を見つけたの。心当たりはない?」 「そんなもん、あいつならもらい慣れてて鼻紙にでもしてるんじゃねえのか」 「鼻紙にするのはもったいないくらい達筆だったわ。それに、文面自体は脅迫っていうよりは警告みたいで。いいかげんによしておけ、って葉書に書いてあったの。なんのことだと思う?」 「知らねえよ」  今度は尤雄に近しい話だというのに、また完璧な他人事の口調で返される。  縲はむっとした。 「もう少し考えてみてよ、あんたつきあい長いんでしょ?」 「十五年程度だ」 「十分長いじゃない。だったらいろいろ知っちゃったことだってあるでしょ。あいつ、新聞以外に何をやってるの?」  なにげなく言っただけだが、途端に尤雄の眼光が鋭くなった。 「──関わるのはやめとけ。前も言ったはずだ」  不機嫌そうな尤雄にはもう慣れた。  縲はその視線を真っ向から受け止めた。 「当ったり前じゃない、誰が狸の仲間になんかなるもんですか。あんただって十五年も前ならまだまだかわいいちび助でしょ。そんなころからのつきあいの相手をあっさり見捨てようなんて、裏から表へどうひっくり返そうががりがり亡者の完全見本だわ」  腕を組んで、一気に言ってのける。  言ってから尤雄の顔をしげしげと見た。 (……とかって、まさか十五年前でもこんな顔だったりして。そもそもどう見ても狸よりは狐、っていうか山犬?)  まったく当座の問題とは関係ないことを考えてしまう。  それくらい、尤雄の不機嫌そうな顔は崩れなかった。  眼光がいっそう鋭い。
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