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「そういえば、あんたにはほかにも聞きたいことがあったのよ」
「なんだよ」
「狸親父の新聞社に行ったとき、脅迫状を見つけたの。心当たりはない?」
「そんなもん、あいつならもらい慣れてて鼻紙にでもしてるんじゃねえのか」
「鼻紙にするのはもったいないくらい達筆だったわ。それに、文面自体は脅迫っていうよりは警告みたいで。いいかげんによしておけ、って葉書に書いてあったの。なんのことだと思う?」
「知らねえよ」
今度は尤雄に近しい話だというのに、また完璧な他人事の口調で返される。
縲はむっとした。
「もう少し考えてみてよ、あんたつきあい長いんでしょ?」
「十五年程度だ」
「十分長いじゃない。だったらいろいろ知っちゃったことだってあるでしょ。あいつ、新聞以外に何をやってるの?」
なにげなく言っただけだが、途端に尤雄の眼光が鋭くなった。
「──関わるのはやめとけ。前も言ったはずだ」
不機嫌そうな尤雄にはもう慣れた。
縲はその視線を真っ向から受け止めた。
「当ったり前じゃない、誰が狸の仲間になんかなるもんですか。あんただって十五年も前ならまだまだかわいいちび助でしょ。そんなころからのつきあいの相手をあっさり見捨てようなんて、裏から表へどうひっくり返そうががりがり亡者の完全見本だわ」
腕を組んで、一気に言ってのける。
言ってから尤雄の顔をしげしげと見た。
(……とかって、まさか十五年前でもこんな顔だったりして。そもそもどう見ても狸よりは狐、っていうか山犬?)
まったく当座の問題とは関係ないことを考えてしまう。
それくらい、尤雄の不機嫌そうな顔は崩れなかった。
眼光がいっそう鋭い。
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