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「仲間になるだけじゃねえよ、探りを入れるのも関わりだ」
今度は縲が尤雄の言葉を無視する番だった。
「あの狸親父の目的は、本当にこの家の秘密なの? じゃなくて、財産のほうじゃない?」
田友の鳴東新聞社は活気があったが、新聞自体はかなり売れ残っていた。
そのくせ田友の様子からすると、かなりの財産がありそうだ。
「後ろ暗いことをして大金を稼いでるのは、江那堂男爵家じゃなくてあの狸親父本人なんでしょ?」
尤雄はさらに眉根を寄せた。
「……おい、本当にやめろ。取り返しのつかねえことになったらどうする気だ?」
「たいていのことは取り返しがつくわよ。もしつかなくたって、わたしだけの問題だし」
こういうとき、ひとりは身軽でいい。
誰も気にすることなく、自分の意志だけでやりたいことをやれる。
いまは十子の心痛を払ってやりたい。
まずは邸内の事件を解決して、そのあとは財産に惹かれて飛んできた悪い虫も追い払ってやりたかった。
「やりたいことができなかったら、寝覚めが悪いもんね」
縲はにんまりと、尤雄に笑いかけた。
尤雄は鋭く舌打ちした。
すばやく道具を集めて大股に去っていく。
縲はその背に呼びかけた。
「もし気が変わったら話してよね! わたしの気は変わらないから」
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