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(やっぱり火事を起こそうとしたんじゃなくて、帳簿を燃やそうとしたんだろうな)
しかし、もし不正に手を染めていてその証拠を消そうとした駒藤の仕業なら、こんな場所は選ぶまい。
一方、駒藤の不正を暴きたかったクメの仕業なら、そもそも燃やすわけがない。
「鍵ってどこに落ちてたの?」
「そこの台の前だ」
尤雄が指さしたのは、ガラス戸から数歩離れたガラス壁の近くだった。
木製の三層台が置かれ、長く使われてなさそうな植木鉢が伏せられていた。
「火事のとき、ここに出入りしてたのは?」
「男連中だな」
「執事も?」
「手より口のほうが動いてたが。ああ、それと女中頭も入ってきた。こっちも邪魔だしうるせえし」
「はあ!?」
なんでよけいなことを、と働き者の彼女が恨めしい。
ということは、駒藤もクメも、火消しにまぎれてこっそり鍵を落とすことができた。
縲は顔をしかめて腕を組んだ。
そのとき、庭のほうから女中がひとり走ってきた。
顔がこわばっている。
「どうしたの?」
ただならぬ気配に、縲は自分からコンサバトリーを出た。
女中は荒い息もそのままに言った。
「お、お嬢さまが!」
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