5人が本棚に入れています
本棚に追加
§ § §
何があったのかは女中から聞けた。
「はい、馬車馬がいきなり暴走したそうで、ちょうど乗ろうとしていた十子さまがお怪我を……そりゃもう騒ぎで」
縲は唇を噛みしめた。
この事故も、この男爵邸にくすぶる誰かの悪意のせいなのだろうか。
すぐにでも十子に会いたかったが、医師の診察が終わるまで無理だと断られた。
縲はじりじりしながら廊下で待った。
やがて、十子の居室の扉が開いた。
「失礼します!」
出てきた医師をすりぬけて、縲は部屋に飛びこんだ。
クメがぎろりとにらんできた気がしたが、どうでもいい。
十子はベッドに脚を伸ばして座っていた。
ほっそりした足首には痛々しく包帯が巻かれている。
「怪我は!?」
十子は縲に微笑んだ。
「ありがとう、ただの捻挫だそうよ。しばらく動くのに苦労するでしょうけれど、それくらい」
縲は小さく息をついた。
大怪我ではなかったことにほっとし、それと同時に自分への怒りがふつふつとたぎってくる。
「……ごめんなさい。わたし、探偵なのにあなたを守れなかった」
最初のコメントを投稿しよう!