4 うずまく疑い(2)

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       § § §  何があったのかは女中から聞けた。 「はい、馬車馬がいきなり暴走したそうで、ちょうど乗ろうとしていた十子さまがお怪我を……そりゃもう騒ぎで」  縲は唇を噛みしめた。  この事故も、この男爵邸にくすぶる誰かの悪意のせいなのだろうか。  すぐにでも十子に会いたかったが、医師の診察が終わるまで無理だと断られた。  縲はじりじりしながら廊下で待った。  やがて、十子の居室の扉が開いた。 「失礼します!」  出てきた医師をすりぬけて、縲は部屋に飛びこんだ。  クメがぎろりとにらんできた気がしたが、どうでもいい。  十子はベッドに脚を伸ばして座っていた。  ほっそりした足首には痛々しく包帯が巻かれている。   「怪我は!?」  十子は縲に微笑んだ。 「ありがとう、ただの捻挫(ねんざ)だそうよ。しばらく動くのに苦労するでしょうけれど、それくらい」  縲は小さく息をついた。  大怪我ではなかったことにほっとし、それと同時に自分への怒りがふつふつとたぎってくる。 「……ごめんなさい。わたし、探偵なのにあなたを守れなかった」
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