4 うずまく疑い(2)

6/11
前へ
/133ページ
次へ
 あまりに火つけ犯がわからないものだから、犯人の新たな動きを待とうと思ってしまった。  そしていま、たしかに目論見どおりに動きはあった──十子の怪我という最悪に近い結果となって。 「探偵のお仕事は、護衛とは違うのではなくて?」  十子はそう言ってくれたが、その微笑は夜に見たものとはやはり違う。  初めて彼女に会ったときに見た、整ったよそ行きの笑顔だ。 「ただの事故だわ。馬だって驚くこともあるでしょう」 「でも、こんなこといままで一度もなかったんでしょ? ──火事みたいに」  この邸宅で初めて起きた火事のあとに初めての事故が起きたのは、偶然かもしれない。  しかし偶然ではないかもしれない。  後者を疑って前者だった場合はいいが、逆は絶対にあってはならない。 「わたし、この事故も調べるから。もし犯人がいるなら絶対につかまえて、もう二度とあなたをこんな目に遭わせないようにするから」  十子の微笑が少し大きくなった。  本来の彼女の表情にちょっとだけ近づいた気がして、縲は力強くうなずいた。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加