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あまりに火つけ犯がわからないものだから、犯人の新たな動きを待とうと思ってしまった。
そしていま、たしかに目論見どおりに動きはあった──十子の怪我という最悪に近い結果となって。
「探偵のお仕事は、護衛とは違うのではなくて?」
十子はそう言ってくれたが、その微笑は夜に見たものとはやはり違う。
初めて彼女に会ったときに見た、整ったよそ行きの笑顔だ。
「ただの事故だわ。馬だって驚くこともあるでしょう」
「でも、こんなこといままで一度もなかったんでしょ? ──火事みたいに」
この邸宅で初めて起きた火事のあとに初めての事故が起きたのは、偶然かもしれない。
しかし偶然ではないかもしれない。
後者を疑って前者だった場合はいいが、逆は絶対にあってはならない。
「わたし、この事故も調べるから。もし犯人がいるなら絶対につかまえて、もう二度とあなたをこんな目に遭わせないようにするから」
十子の微笑が少し大きくなった。
本来の彼女の表情にちょっとだけ近づいた気がして、縲は力強くうなずいた。
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