4 うずまく疑い(2)

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       § § §  夕空の下の厩舎ではあわただしく働く者たちの姿があったが、不自然に静まっている。  空気がどことなく緊張感に満ちていた。  しかし縲はかまわず、手近にいた馬丁に尋ねた。 「十子お嬢さまのご依頼で調査してるの。問題の馬はどこ?」  と、後ろから声をかけられる。 「ああ縲さん、ご苦労さまです」  楓次だ。  避けたいときもあるが、いまはおしゃべりな彼がありがたい──軽く喜びながらふりむいた縲は、次の瞬間ぎょっとした。 「その顔!」  唇の端が切れていてそのあたりは紫色に変わり、しかも少し腫れている。  彼は軽く肩をすくめた。 「上役(うわやく)に一発食らっただけですよ、ご心配なく」 「事故のせいで?」 「ええ。馬が暴れたのは、おれが持ってきた輓鞍(ひきぐら)が悪かったってことになるみたいです」 「……でも、違うんでしょ?」 「おっ、さすがですね。馬にくわしいんですか?」 「そういうわけじゃないけど」  楓次の笑顔が少しぎこちないのは、やはり顔が痛いらしい。  上役の決めつけに反論しようとして殴られたのか、そもそもそんな暇も与えられなかったのか。  縲は腹が立った。 (どいつもこいつも、どうしてここのお屋敷のお偉いさんにはろくなのがいないのよ!)
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