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「……そうしたら、記者として雇ってくれるんですよね? ちゃんとお給金も払って」
「もちろんだ」
田友は新たに煙管に煙草をつめ、ふうっと煙を吐き出した。
縲はさりげなく顔をそむけた。
以前働いていた田友の妾宅の女主人も吸っていたが、縲はどうにも煙草の煙が苦手だった。
鼻の奥はつんとするし、喉はがらがらするしで、ひとつもいいことがない。
「江那堂家は十文字山にある。しばらく近づくな、万が一にも怪しまれちゃいかん」
「あ、はい、わかりました」
縲は咳をこらえて答えた。
これからも洋装をしなくちゃいけないならハンカチを買おう、とひそかに決める。
子爵夫人が持っていたような高級品は無理にしても、もっと安価なものなら今回もらった謝礼金で買えるだろう。
が、ふと田友が言ってきた。
「で、報酬は?」
「え?」
「しらばっくれるな、子爵夫人から巻き上げたろ。渡せ」
(はああ?)
これくらいもらっても、とは思ったが、逆らうわけにもいかない。
縲はしぶしぶ五十銭銀貨を差し出した。
田友は疑わしげだった。
「これだけか?」
さらに疑わしげにじろじろ見られたが、縲は堂々と視線を受け止めた。
「これだけです、正真正銘」
「……そうか」
田友は五十銭銀貨を袂に入れようとした。
縲は急いで言った。
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