1 謎めいた男爵家(2)

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「……そうしたら、記者として雇ってくれるんですよね? ちゃんとお給金も払って」 「もちろんだ」  田友は新たに煙管に煙草をつめ、ふうっと煙を吐き出した。  縲はさりげなく顔をそむけた。  以前働いていた田友の妾宅の女主人も吸っていたが、縲はどうにも煙草の煙が苦手だった。  鼻の奥はつんとするし、喉はがらがらするしで、ひとつもいいことがない。 「江那堂家は十文字山(じゅうもんじやま)にある。しばらく近づくな、万が一にも怪しまれちゃいかん」 「あ、はい、わかりました」  縲は咳をこらえて答えた。  これからも洋装をしなくちゃいけないならハンカチを買おう、とひそかに決める。  子爵夫人が持っていたような高級品は無理にしても、もっと安価なものなら今回もらった謝礼金で買えるだろう。  が、ふと田友が言ってきた。 「で、報酬は?」 「え?」 「しらばっくれるな、子爵夫人から巻き上げたろ。渡せ」 (はああ?)  これくらいもらっても、とは思ったが、逆らうわけにもいかない。  縲はしぶしぶ五十銭銀貨を差し出した。  田友は疑わしげだった。 「これだけか?」  さらに疑わしげにじろじろ見られたが、縲は堂々と視線を受け止めた。 「これだけです、正真正銘」 「……そうか」  田友は五十銭銀貨を(たもと)に入れようとした。  縲は急いで言った。
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