4 うずまく疑い(2)

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「──宮芝(みやしば)! また怠けてやがるな!」  ひゅっと風を切る音がして、縲はまたふりむいた。  (むち)を手にした中年男が、縲をうさんくさげに見てきた。  楓次と同じ御者の制服を着ている。 「あ、こちら探偵の阿古村縲さんです。現在当家の事件を調査中でして」  楓次がすかさず紹介してくれた。  御者は一瞬ひるんだ。  だがすぐに居丈高な態度に戻る。 「なんだい嬢ちゃん、何かここに問題でもあるってのかい?」  縲の腹立ちがさらに強くなる。  軽く顎をあげ、正面から御者を見据えて言い放つ。 「いままで起きたことのないことが起きたんなら、問題があるのは当たり前じゃないですか。あなたが事故当時の御者ですよね?」 「おおそうだ、そこのとうしろう(・・・・・)とは年季が違わぁ。ありゃ鞍に何か入ってて驚いたんだ」 「……馬車馬ってものは、鞭で打たれたってあんないきなり駆け出しやしませんけどね」  隣でぽそりと楓次がつぶやいた。  小さな声だったが、十分だ。  彼の意見を受けて、縲は御者に言った。 「じゃあ訊きますけど、鞍に何が入ってたらこんなことになったと思うんです? 馬ですよ、鞭で打たれたってそんな急に動きやしないのに」
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